子宮癌の早期発見について

子宮癌検診をはじめ婦人科検診を定期的にお受けになることが大切です

はじめに

 増え続ける癌のなかで、子宮癌はその死亡率が明らかな低下傾向を示す数少ない癌のひとつです。
 特に子宮頸癌においては、集団検診の普及により、早期発見・早期治療の効果が顕著に現れたためと思われます。
 しかし、近年わが国におきまして子宮癌の罹患年齢が明らかに若年化しており、また平均寿命の延長や食生活などの環境の変化により、子宮体癌が著しい増加傾向を示しています。
 子宮癌についての正しい知識をお持ちいただき、婦人科検診受診の動機としていただければと存じます。

 

女性性器の構造

女性性器の構造

 卵巣、卵管、子宮、膣は右の図のような構造になっており、特に子宮は西洋梨を逆さにした形で、長さ約7cm、幅約4cm、厚さ約2.5cmの大きさです。上2/3を子宮体部、下1/3を子宮頸部とよんでいます。
 子宮壁の粘膜は特に子宮内膜と呼ばれ、大半は一層の円柱状の細胞で覆われています。内膜は思春期以後閉経期まで月経周期に伴って著しい周期変化を示します。また下端は膣に開口しており、円柱上皮はこの部分で重層の扁平上皮になります。子宮頸癌の大部分は、この扁平・円柱上皮接合部から好発します。

 

組織・細胞の構造

■ 正常扁平上皮

正常扁平上皮

 膣から子宮頸部の上皮接合部までは重層(重なり合って厚みのある状態)の扁平上皮で構成されています。
 左図の細胞像は正常の表層扁平上皮細胞です。ピンク色ないし青緑色に染まっているのが細胞質であり、真ん中に濃く染まっているところが核です。
 右図はその組織です。下部の深層部から上部の表層へ向かって成熟します。
 写真の細胞の大きさは約60~100マイクロメーター (1マイクロメーター = 1/1000mm)です。

■ 正常円柱上皮

正常円柱上皮

 子宮頸部の上皮接合部から子宮体部までの粘膜は一層の円柱上皮で構成されています。主として粘液を産生したり、思春期から閉経期までは女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)の影響下で顕著な周期変化を起こします。
 左図が細胞像であり、小型の円柱状の細胞が規則的な集団を形成しています。(上から見ているため蜂の巣様を呈しています)。右図はその組織像です。Uの字状に湾曲しているのが円柱上皮です。 大きさは扁平上皮細胞にくらべるとはるかに小さく、約10マイクロメーター程度です。

 

子宮癌検診のあらまし

組織・細胞構造でも説明いたしましたように、頸部、体部では構成している細胞自体が異なりますので、発生する癌のタイプにも違いがあります。また女性性器の解剖学的な構造の違いから、頸部・体部における細胞の採取方法にも違いがあります。

■ 細胞採取方法

頸部の細胞採取

頸部の細胞採取

体部の細胞採取

体部の細胞採取

 図「頸部の細胞採取」が頸部の採取方法です。子宮膣部の頸癌好発部位である上皮接合部を中心に綿棒などで採取します。図「体部の細胞採取」が体部の採取方法で、先端に小さなブラッシのついた専用採取器具で採取します。頸部・体部とも使い捨ての滅菌器具で行います。

■ 細胞判定(クラス分類)について

 細胞の判定は、細胞構造の変化の度合いにより分類します。わが国ではクラス分類が一般的であり、また近頃では陰性・疑陽性・陽性などの分類も併用されます。下表は判定とその解釈を示しましたが、これらはあくまでも細胞の変化を指標にしたものであり、炎症・ホルモン環境・種々の感染症などによっても、強く影響を受けます。

クラス I
クラス II
陰性 ・細胞にまったく変化を認めない
・軽い細胞の変化を認めるが、悪性の所見はない
クラス III a
クラス III b
偽陽性 ・軽度の前癌病変が考えられるが、悪性の可能性は低い
・高度の前癌病変が考えられ、場合によっては癌の可能性もある
クラス IV
クラス V
陽性 ・上皮内に限定した早期の癌が考えられる
・癌病変の存在が考えられる

■ 頸部の前癌病変

頸部の前癌病変

 癌は臓器によって種々の種類がありますが、子宮頸癌の殆どが扁平上皮癌です。癌の発生の仕方にも一定の流れがあり、大部分の癌が前癌病変と呼ばれる過程を経て成立します。 しかし前癌病変のすべてが癌に進展することはなく、そのなかの数%の方のみが癌になると云われています。また前癌病変は細胞・組織の変化の程度により軽度、中等度、高度と区別されます。
 左図はクラスIII a”軽度前癌病変”と判定された細胞です。正常の扁平上皮細胞に比べ核の大きさ、濃さ、形の変化に違いが見られます。右図は”高度前癌病変”と判定された組織像です。細胞像と同様の変化が認められます。

■ 頸部の上皮内癌

頸部の上皮内癌

 前癌病変の数%は上皮内癌に進展します。上皮内癌とは浸潤・転移のない上皮に限局した早期の癌です。左図は外子宮口(膣に開口した部分)に発生した上皮内癌のコルポスコープ(拡大鏡)像です。軽いビランがみられたり、モザイク状になったりします。その隣が細胞像。そして組織像です。癌病変ですが、下部の結合組織との境目がはっきりしており、浸潤のないことに注目してください。上皮内癌のうちであれば子宮頸部の部分的な切除で終了します。

■ 頸部の扁平上皮癌

頸部の扁平上皮癌

 上皮内癌を放置しますと、いずれ浸潤・転移を開始します。上皮内癌では殆ど自覚症状はありませんが、浸潤癌になりますと不正出血などの症状が出現してきます。手術も子宮全摘などが必要になります。左図は細胞像です。上皮内癌にくらべると形はきわめて奇怪なものであり、細胞の大小不同も顕著です。右図は組織像ですが、細胞像同様に構造上の規則性はまったく消失しています。血管も侵されますので、容易に出血するようになります。

■ 体部の癌

体部の癌

 子宮体癌は頸癌の減少と反比例するように増加傾向にあります。40才以上で肥満気味であり、少産の方に多発すると云われています。体癌のタイプは頸癌とは異なり、円柱上皮に由来する腺癌がその主体です。左図がその細胞像ですが、扁平上皮癌にくらべ立体性の構造をとることが多いようです。右図はその組織像です。ひときわ濃く染まっているのが癌細胞で置換さているところです。このような状態になりますと頸部の浸潤癌同様に不正出血が出現します。早期癌の場合は殆ど自覚症状がありませんので、頸癌検診と同時に体癌検診を受けることが重要です。

 

まとめ

 子宮癌につき出来るだけ分かりやすく解説を致しました。他の臓器の癌と同様に早期に発見することの重要性をご理解いただけたことと思います。そのためには自覚症状のないときに定期的に癌検診を受けることが大切です。また癌検診に対しての信頼性や、万が一異常が発見された場合の適切な対応のチェックも忘れてはならないことです。