更年期とホルモン補充療法
更年期以後の関節障害
更年期を人生の折り返し点と考え、快適な QOL(quality of life) を謳歌してください
はじめに
卵巣は40才頃から急速に機能の低下がはじまり、50才頃で”閉経”という象徴的な現象をむかえて、完全にその働きを終えます。更年期特有の症状は、この卵巣機能低下に伴う女性ホルモン(エストロゲン)低下が主原因といわれています。
更年期障害の年齢層
40才から55才頃までとバラツキがありますが、45才前後に最も多くみられます。
また、ホルモン治療をしない場合、2~3年といわれていますが、年齢に関係なく60才を過ぎても続く方がおります。
更年期障害の症状
その症状は
- 血管運動症状・・・のぼせ、発汗、動悸、頭痛、肩こり、いらいら
- 精神的症状・・・・うつ気分、不安感、不眠
などのいわゆる”不定愁訴”とよばれるものです。
症 状 | 閉経前 | 閉経時 | 閉経後 |
---|---|---|---|
ほてり | 5.7% | 12.6% | 10.8% |
夜間発汗 | 4.2% | 4.1% | 3.1% |
急な発汗 | 1.1% | 4.4% | 7.2% |
Margaret Lock,産婦世界,39:553,1987より
更年期障害の診断
症状とあわせ、血液中の女性ホルモン(E2:血中エストラジオール)、卵巣刺激ホルモン(FSH、LH)を測定すれば確実です。
更年期障害の治療
基本的には”ホルモン補充療法(HRT:hormone replacement therapy)”により、女性ホルモン(エストロゲン)を補います。
最低5年間続けることにより、骨折などが問題になっている”骨粗鬆症”の予防にも著しい効果があります。
ホルモン補充療法の副作用としては、乳癌の発生率が20-30%ほど高くなること、内服薬では血栓症リスクが上がること、まれに肝機能障害を起こすなどの欠点があります。
血栓症と肝機能障害のリスクがないパッチ薬やゲル状の経皮薬も選択できます。
まとめ
平均寿命83才の現代におきまして、更年期といわれる50才前後は人生後半の折り返し点です。女性の加齢に伴うこれらの生理的な現象は誰もが避けて通れないものです。一般的に更年期障害は運動や趣味などで気を紛らせ、嵐が過ぎるのを待てば良いとされていましたが、放置すれば”骨粗鬆症”、”節障害”、”心筋梗塞”、”動脈硬化”、”老人性痴呆”などの取り返しのつかない老化現象が進行いたします。正しい知識と診断、そして早い時期からの予防・治療により、快適なQOL(quality of life)を謳歌してください。
更年期にともなう関節障害、おもにヘバーデン結節について
更年期女性では骨密度低下で骨粗鬆症になりやすくなる事は良く知られています。しかし女性ホルモンの低下はほかにも関節周囲組織の弾力性が低下や関節滑膜の性状の劣化をもたらし、多彩な関節症状や関節疾患を起こすようになることはあまり知られておりません。
前段階とし手のこわばりを、特に朝起きた時に感じるようになります。数年の経過を経て、やがて痛みを伴い動かしにくくなり指の第一関節がこぶのように腫大します。
これはヘバーデン結節と呼ばれ、関節リウマチをまず思い浮かべ検査を受けても異常が見つかりません。
実はヘバーデン結節は関節リウマチよりはるかに多くみられ、さらに女性に多く男性の4倍です。使いすぎや老化によるものとされ、鎮痛剤で痛みを止めて様子を見、ひどくなれば関節固定などの手術を受けているのが現状です。
同様の関節異常はほかの関節でも起こり、外反母趾や足底筋膜炎、さらには変形性膝関節症なども起こしやすくなります。
更年期のホルモン補充療法は、これらの予防と治療に非常に効果的です。ただ即効性はなく粘り強い長期の治療が必要です。ラロキシフェン(エビスタ)という女性ホルモン類似物質の薬も選択肢で、性腺刺激作用をなくしてがん発生リスクを軽減し、血管、筋肉、骨、関節への保護作用のみを残しています。エクオールという市販のサプリメントも同様の薬効です。
漢方薬では、急性で痛みと熱感を伴うものに越婢加朮湯、薏苡仁湯、麻杏薏甘湯などが即効性があり、リスクはほとんどありません。慢性化して冷えを伴うものには桂枝加朮附湯、大防風湯などが有効です。
ホルモン補充療法は気長にベースを改善していく。漢方薬は臨機応変に速攻で苦しい症状を改善していく。といった役割の違いがあります。急性期、慢性期、熱を持っているか、冷えているかを注意深く観察し、適切な処方を選ぶ必要があります。これらの漢方薬はホルモン補充療法と併用することで相乗効果が期待できます。なるべく早いうちに、できれば病気と自覚する前、手のこわばりを覚える初期のうちに根本的な治療を開始されることがおすすめですが遅すぎることはありません。