生理痛を起こす病気と治療
月経困難症、子宮内膜症の病態
生理の出血は子宮内膜が剥離脱落することによって起こります。
強い痛みを伴う場合、子宮筋が攣縮を起こし、子宮口が狭くなったり、子宮腔内の内圧が上がったりすることが推測されます。そうすると月経血は卵管を逆流して腹腔内に漏れ出ることがあります。腹膜に血液が付くと激烈な腹痛、嘔吐などの腹膜炎症状を起こします。この痛みがまた子宮筋の攣縮を惹起しさらに血液の逆流と強い痛みを惹起する悪循環を形成します。
逆流した月経血には子宮内膜の破片が含まれ、腹膜や、卵管、卵巣などに付着した後生着して子宮内膜症の病巣を作ります。腹腔鏡や手術などで観察するとブルーベリーのように見え、ブルーベリースポットと呼ばれます。
(この病態説明は逆流説と呼ばれております。見たわけではないのであくまで「説」ではありますが、非常に合理的にすべての病態を説明できるので有力な説と考えております。)
(武谷雄二監修:Clinical Color Guide:Hoechstより)
腹腔にできた子宮内膜症は、子宮後壁と後腹膜との癒着を起こし、前屈していた子宮は後ろに引っ張られ後屈を起こします。また膣壁と直腸の境目、腹腔の一番底に当たるダグラス窩にに病巣ができた場合、排便痛や性交痛を起こすことがあります。
卵巣に内膜症病巣ができると、出血の出口がないため経血がたまって嚢腫ができます。水分だけは吸収されるので鉄分と濃い粘液が残りドロドロのチョコレートのような内容を含んだ内膜症性卵巣嚢腫ができます。
(武谷雄二監修:Clinical Color Guide:Hoechstより)
卵管に子宮内膜症ができると、癒着して卵管通過障害を起こし不妊症になりやすくなります。また、卵管内部の子宮内膜症部分に受精卵が着床して異所性妊娠(旧名:子宮外妊娠)を起こすこともあります。
生理時、子宮腔内圧が上がると、経血は子宮筋の隙間に浸透して遺残し内膜症病巣を作ります。子宮筋は固く大きくなり、内部で出血しますから激烈な生理痛をもたらします。固くなった子宮筋はしなやかさを失い、収縮による内腔の圧迫止血を妨げます。水道のパッキングが硬化して水漏れを起こすイメージです。生理痛だけではなく過多月経の原因になります。血の塊がゴロゴロと出て、ナプキンからあふれるほどの量になることもあります。過多月経が原因で貧血を起こすことがあります。このように子宮内膜症が子宮筋にできたものを子宮腺筋腫または子宮腺筋症と呼びます。子宮筋腫と似た症状で治療も共通することが多いものです。
(武谷雄二監修:Clinical Color Guide:Hoechstより)
以上のように子宮内膜症は、生理痛、性交痛、排便痛、不妊症、異所性妊娠、過多月経など多彩な症状や合併症をもたらすやっかいな病気です。
月経困難症 子宮内膜症の治療
■ 鎮痛剤: ロキソニン、カロナール、ボルタレンなど
仮説ではありますが、逆流説に基づくと、最初に痛みありで、悪循環を呈したものと理解できます。まだ目に見える異常が見つかっていない月経痛でも、すでに内膜症の原因となる不都合な逆流が起きていることが推測されます。放置しないで、まず痛みをとることから始めます。飲んでみてよく効く鎮痛剤を、痛み始めたら躊躇なく早めに服用することです。薬に頼らないでなるべく我慢することは内膜症を悪化させるだけです。痛みによる悪循環が原因であることを理解して、鎮痛剤服用を躊躇しないことです。痛みを予防する感覚で臨んでください。
■ OC(Oral Contraceptive経口避妊薬、いわゆるピル) LEP(Lowdose Estrogen Progeserone 低用量卵胞ホルモン、黄体ホルモン配合剤):アンジュ、マーベロン、ドロエチ、ヤーズフレックス、フリウェルなど
もともとOC(ピル)を服用している人の生理は、量が少なく痛みも軽いことが知られていました。ピルに含まれる黄体ホルモンに子宮内膜の増殖を止める作用があるためです。OC以外にも生理痛や子宮内膜症治療に特化した類似薬がありこれらをLEPと呼んでいます。 子宮内膜増殖を止めることにより、子宮内膜は薄くなり、生理で剥離する際、出血量が減り痛みも軽くなります。子宮内膜症病巣を退縮縮小させる効果もあります。対症療法だけではなく、根治的な原因治療にもなっております。 LEPはOCに準じた周期的な服用方法と、生理を一定期間止める(4月程度)連続服用方法とがあります。LEPを服用して生理痛が軽くはなってもまだ痛い方は、連続服用を選択するとベターです。連続服用は女子スポーツ選手などが大事な大会や強化期間中生理を避けたい目的にも使用されているものです。6ヶ月以上、できれば1年継続がおすすめです。副作用としては、血栓症が要注意です。急な息苦しさ、ふくらはぎの痛み腫れ、静脈が腫れるなどの症状に注意してください。特に喫煙をされると血栓症リスクが高くなります。ヘビースモーカーの方はOC・LEPは禁忌です。ほか、高血圧、目がチカチカするなどの前兆を伴う片頭痛のある方も禁忌です。喫煙者の方も、いずれはやめたいと思っている人がほとんどで、先送りしているだけと思われます。OC・LEP治療開始を禁煙のきっかけとして禁煙成功されている方も多数おられます。ぜひ禁煙決断の応援をしたいと思います。
■ 黄体ホルモン剤:ジェノゲスト、デュファストン、プロベラなど
子宮内膜増殖抑制作用を強化した黄体ホルモン剤としてジェノゲストがあります。 OC・LEPは一日1回でよいのですが、一日2回服用する必要があります。生理周期を整える作用はなく、自然の状態になります。ただ生理量を減らして、痛みを軽くする、月経困難症治療効果は同等です。内膜症に対する根治効果もまた同等です。血栓症の合併症がなく、また高血圧、片頭痛の方も使用可能で。OC・LEPの安全版とも言えます。
■ 徐放性子宮内黄体ホルモン放出システム:ミレーナ
徐放性黄体ホルモン放出システムを組み込んだ子宮内リングです。黄体ホルモンが5年間徐々に放出され、子宮内膜増殖を抑制します。生理の量が減り、痛みも軽減します。子宮だけに作用し、全身には作用しないため、合併症などでOC・LEPが使えない方に最適です。出産経験者は比較的楽に挿入できますが、未産婦のかたは、むつかしい場合があります。10人に1人くらい、腹痛や継続する出血など馴染めない症状で抜去することがあります。 OC・LEP 服用中の方はいつでも装着可能。自然生理周期のかたは生理開始4-10日の間が装着可能です。
■ ホルモン抑制剤(視床下部・下垂体レベルで性腺刺激ホルモン分泌を抑制):レルミナ(内服薬)、リュープリン(注射)
上位の視床下部で性腺刺激ホルモン(GnRH)の働きを抑えることで、下位の下垂体性腺刺激ホルモン分泌を抑制します。結果、卵巣からの黄体形成ホルモンおよび卵胞刺激ホルモンの分泌を阻害し、血中性ホルモンの濃度を低下させます。 性ホルモン濃度の低下により、子宮内膜の増殖を抑制、内膜症病巣・腺筋症の縮小、子宮筋腫の縮小などの治療効果をもたらします。非常に強力で、生理は止まります。副作用として更年期障害と同じホットフラッシュなどの症状が出てきます。6ヶ月と期間を区切って治療します。
■ 漢方薬:
生理痛の強い方は、末梢血流のうっ滞を起こしていることが多く、漢方ではこの現象を瘀血(おけつ)と呼んでいます。漢方では数多くの駈瘀血剤があります。体力中等度以上の方は桂枝茯苓丸、冷え性で一見虚弱そうに見える方は当帰芍薬散などが比較的使用頻度の多い代表的な処方です。ほかにも多数あります。漢方では、鍵と鍵穴のように、体質と病状を詳細に検討しぴったりと合った処方を選ぶ事が大切です。ぴったりとあてはまった処方が見つかると、時に奇跡的ともいえる効き目を実感できることがあります。西洋医学治療と併用して相乗効果も期待できます。